私はもともと京都から高知に移住してきた人間だ。この地での暮らしに慣れてきたこの頃、「絶景」は意外と遠くではなく、暮らしのすぐそばにあると気づく。山の棚田に、透き通る川の淵、そして町を流れる静かな川。どの風景にも、人の手と想いが息づいているように感じる。今回は、そんな水と人がつくる高知の風景をめぐる、小さな旅の記憶を綴っていこうと思う。

津野町・貝ノ川の棚田 ― 地域が息づく“生きた景観”
高知県津野町の山あいにある貝ノ川地区。そこに広がる棚田を初めて見たとき、思わず足を止めた。
整然とした段々の稜線は、自然が描いた曲線のようでいて、どこか人の手の温もりが滲んでいる。長い年月をかけて積み上げられた石垣。形の揃った田んぼの区切り。その一つひとつに、暮らしの知恵や労力の跡が刻まれていた。
地域学習の授業で訪れた際、案内してくれたのは加藤さんという移住者だった。県外出身ながら、この棚田を守る活動に魅せられて津野町に住みついたという。「この景色を未来に残したいんです」と笑う彼の言葉が印象的だった。草刈りや祭りの運営を、地元の人たちと肩を並べて続けているらしい。
高知トラベルの筆者が特に心に残っているのは、キャンドル祭りの夜。棚田いっぱいに灯る無数の灯が、まるで星空を地上に移したようで、息をのむほど幻想的だった。その一夜のために、何日も前から準備する人々の姿がある。風景を守るというのは、単に景観を残すことじゃなく、人と人のつながりを絶やさないことなのだと気づかされた。
近代化が進む中で、手作業で守られる棚田はまさに“生きた文化遺産”だ。高知トラベルでは、こうした地域の営みや人々の思いを、旅を通じて丁寧に伝えていきたいと考えている。観光客として眺めるだけでは分からない、地域の底力がここにはある。

にこ淵 ― 静けさの中で、心が澄んでいく場所
にこ淵を訪れたのは、暑い夏の日だった。
「仁淀ブルーを見てみたい」──そんな軽い気持ちで自転車を漕ぎ出したのが始まり。でも、坂道を登るたび、景色が少しずつ変わり、気持ちまで静まっていくのが分かった。市街を抜けて仁淀川が姿を現すころには、空気まで透き通るような感覚があった。道端の花、地元の人の笑顔、そんな小さな出会いが旅の喜びをふくらませていく。
そして辿り着いたにこ淵。光が差し込むと、水面はエメラルドグリーンから深い青へ。滝壺の底まで透き通るその光景に、思わず息をのんだ。滝の音が静寂を包み、時間の流れが一瞬止まったように感じた。観光地というより、“心を洗う祈りの場”という表現がしっくりくる。

自転車を漕ぎだして約30キロ地点で立ち寄った小さなカフェ(仁淀川を眺めながらのお食事あおぎ(【旧店名】あおぎ)住所・高知県吾川郡いの町勝賀瀬 3192)では、地元野菜、フルーツのランチをいただきながら高知県産のショウガをふんだんに使った生姜焼きを食べました。友人は日替わりランチを注文していました。窓の外を流れる川をぼんやり眺めた。にこ淵の透明な水と、人のあたたかさ。その両方が、今でも記憶の中でやわらかく光っている。
高知トラベルでは、こうした‘‘風景と心が響きあう場所‘‘を大切に紹介している。にこ淵のように、自然の美しさと人のぬくもりが交差する瞬間こそが、旅の本質なのかもしれない。

鏡川 ― 日常のすぐそばにある、変わらない美しさ
遠くまで旅をしなくても、身近に“絶景”はある。
高知市を流れる鏡川は、私にとってそんな場所だ。大学に向かう途中で渡る橋の上から見える水面。朝は空の青を映し、夕暮れには街の灯をやさしくゆらす。雨の日は霧が漂い、まるで詩の一節のような静けさに包まれる。
忙しい日々の中で、ふと足を止めて川面を見つめる時間がある。鏡川の流れはいつも変わらずそこにあって、気持ちをリセットしてくれる。
観光名所に行かなくても、暮らしの中にちゃんと絶景はある。そのことを気づかせてくれたのが、この鏡川だった。
おわりに ― 「暮らしの中の絶景」を探す旅へ
津野町の棚田、にこ淵、そして鏡川。
三つの場所を通して感じたのは、自然と人との寄り添い方だった。どの風景にも、人の手と想いが宿っている。観光地でなくても、そこに暮らす人がいる限り、風景は息づき続けるんだなと感じた。特に心に残っているのは、キャンドル祭りの夜。棚田をいっぱいに灯る無数の灯が、まるで星空を地上に移したようで、息をのむほど幻想的だった。その一夜のために、多くの人が時間をかけて準備する。
また、このキャンドル祭りの取り組みそのものも強く印象に残った。この祭りには毎年楽しみにしている根強いファンがいて、地域の人々はその期待に応えようと準備に力を入れていた。オーナーの方が「後継者が心配でね。だからこそみんなでやっていこうぜ!」と笑いながら話していた言葉が忘れられない。その言葉の通り、祭りを続けていくため地域の結束は年々強まっているという。世代を超えて協力し合い、想いを共有する姿には、地域行事のもつ大きな力を感じた。
準備には子供から高齢者まで幅広い世代が参加し、作業を通じて地域の記憶や技術が自然と受け継がれていく様子が印象的だった。祭りの夜、灯りが消えた後も、残る余韻が地域の力を静かに物語っていた。若い移住者たちが中心になってSNSで情報発信を手伝うなど、新旧が交わる工夫も生き方が隠れている。
高知の魅力は、派手さではなく‘ぬくもり‘だと思う。穏やかな景色の中に、地域の物語と人の生き方が静かに息づいている。高知トラベルでは、そんな「暮らしの中の絶景」を見つめ、伝えていく旅を大切にしている。これからも、写真を撮るたびに、その一枚の奥にある‘‘人の思い‘‘を感じ取れる旅人でありたい。



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