近年、全国各地で「ストリートピアノ」が広がりを見せています。街角や駅構内、空港、ショッピングモールなど、誰でも自由に弾けるピアノが設置され、人と人をつなぐ“音の場”として人気を集めています。
では、高知県にもストリートピアノはあるのでしょうか?この記事では高知県のストリートピアノの場所と実際に私が行ってみた感想も踏まえてじっくり紹介していきたいと思います。
”開かれた場”でピアノを弾くメリット

最近は音楽のストリーミングサービスが増え、音楽を聴くこと自体は場所にとらわれずいつでもどこでもできるようになりましたが、やはり楽器は物理的、経済的な制限を要するため、奏者側は場所、環境に制約されがちです。音楽を奏でるということは非常に閉鎖的なのです。特にピアノは気軽に持ち運べるものでもなく、楽器経験者以外は音楽室のピアノくらいしかピアノに触れる機会はほとんどないでしょう。
私は、音楽はもっと我々の身近にあってよいものだと思います。演奏者と聴き手はもっと身近な関係であるべきだと思います。ストリートピアノは、誰でも自由に音楽に触れられる“開かれた場”であることが最大の魅力です。
駅や広場など日常の空間にピアノが置かれることで、演奏者と通行人の間に思いがけない交流が生まれます。そこにピアノがなければ絶対に道をすれ違うだけのはずだった何の関係もなかった人々と出会えたり、たまたま横を通りかかって耳にした音楽がその人の心を癒したりすることの偶然性を生み出したり、街の雰囲気を明るくしたりする効果もあります。音楽が特別なものではなく、誰のものでもある。それを感じられるのがストリートピアノの最大のメリットです。
森の中にぽつんとあるピアノ
「ストリート」ピアノというぐらいですから、多くの人はストリートピアノというと駅や公共施設、路上の一角に設置されてあるイメージが強いかもしれません。しかし高知県では、大自然の森の中にある一風変わったストリートピアノに出会えます。
その場所は、高知県・四万十町にある四万十緑林公園です。私は実際にそのピアノを訪ねてみました。
駐車場から公園の入り口を抜けて少し歩くと、芝生の広場の向こうに小さなウッドデッキスペースのステージが見えました。それが「森のピアノ」と呼ばれる、四万十町のストリートピアノです。
木々に囲まれるようにして黒いアップライトピアノがぽつんと置かれていました。かわいらしいカラフルなデザインで外観がペイントされていて緑一帯の単調な場所にカラフルなピアノのコントラストが素敵でした。周りには柵もなく、誰でも自由に触れるようになっていました。

私は実際に一曲演奏してみました。屋内のピアノとは違い、音が壁に跳ね返らない新鮮な響きに驚きました。代わりに、風の音や水がせせらぐ音が混ざって、普段味わえないような音の感触を体感することができました。
また、手入れや調律もしっかり施されていてしっかりとお世話の行き届いた子でした。
偶然の出会いと”音”の交流
この公園では、休日は定期的に広場でイベントを開催しているようで、私が訪れた当日も家族連れや観光客らしき人がちらほら足を運んできていました。
私の演奏に遠くから耳を傾けてくれていた子どもたちや足を止めて演奏を見守っていた方々は全員私の奏でる音の中に共にいるのだと思うと、その空間が特別なもののように感じました。
ピアノが鳴ると、周囲の空気が変わり、見知らぬ人同士でも、音を通じて一体感が生まれる。私はそんなストリートピアノが持つダイナミックなパワーが大好きです。ここでは都会のストリートピアノでは味わえない、人と人、そして人と自然、音楽と自然の繋がりを体験することができました。
音声学的な観点でも屋外のピアノは興味深い存在です。室内のように音が反響しない分、音の立ち上がりや消え方がはっきりと聞こえます。鍵盤を離した瞬間、音が空気の中にすっと消えていく。そのあとを追うように、木の葉がカサカサと揺れる音や鳥の声が重なり、まるで自然がピアノに“返事”をしてくれているように感じました。
屋内では得られない、音と自然との対話。それを感じられるのが、四万十町のストリートピアノの一番の魅力です。
いつ・どこで演奏できる?
この「森のピアノ」は、四万十緑林公園(高知県高岡郡四万十町香月が丘8-102 (https://maps.app.goo.gl/vLba41KtsG5azSvT8))で、毎年春(3〜5月)と秋(9〜11月)の土・日・祝のうちの晴れた日のみ利用することができます。
今年度の秋シーズンは2025年9月13日から2025年11月30日までの期間ピアノが置かれているようです。
一つ注意しなければならないのが、このピアノは屋外にあるため、雨の日は利用できません。天気予報もしっかりチェックしておきましょう。
ちょうどおでかけやピクニックがしたくなるような過ごしやすい季節に外でピアノが弾けるのはいいですね。期間限定の休日の晴れた日にだけ顔を見せるピアノということもあり、タイミングが合わないと出会えないこのピアノはまるで森の妖精さんが私たちに魔法を見せてくれているかのような感じがします。
公園には広い芝生や遊具があり、家族連れや観光客が多く訪れます。ピアノを弾いたあとはベンチでお弁当を広げたり、川沿いを散歩したりと、のんびり過ごせるのも魅力です。
都会の喧騒から離れて、自然の中で音楽を楽しむぜいたくな休日をぜひ四万十緑林公園で過ごしませんか。
音が生まれる瞬間に、心が動く
帰り際、別の人がピアノを弾き始めました。知らない曲でしたが、風と水の音が混ざり合い、まるで自然全体がその人の演奏を聴いているように感じました。私はしばらく立ち止まり、その音が森に消えていくのを見送りました。
森の中で、風と一緒に音を奏でるピアノが、ここ高知にあります。
四万十町「森のピアノ」は、音楽を上手に弾くための場所ではなく、音と自然と人がふと出会うための場所です。あなたも高知を訪れたら、ぜひ立ち寄ってみてください。きっと山の音楽家もあなたの演奏を聴きたがっていることでしょう。

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